20240413講演会「耕す」を考える(講師:MOA大下穣)

講師:MOA自然農法文化事業団普及員 大下穣
日時:2024年4月13日 場所:あだたら食農schoolfarm

不耕起栽培の定義について

例えば「スコップをもって穴を掘ったらそれはもう不耕起ではないのでは」という人もいます。何をもって不耕起とするか。ここでは、「トラクタを使わないことを第一とし、あとは肥料を入れないということ」とします。そんなことで農業が成り立つのか、ということが大前提になるでしょう。

去年1年間(scoolfarmで)不耕起栽培をやってきたのですが、やり方さえ工夫すれば、必ずしも肥料を入れなくても、トラクタで土を耕さなくても作物ができる、そして土には力があるのだなと、私としてもあらためて勉強になりました。

農場ではトラクター、ロータリーを必要としない不耕起栽培を行ったのですが、スコップで表面をほじったり、ミツグワでちょっと土をほぐしたりしていますので、それは不耕起ではないと言われれば、「簡易不耕起栽培」と言った方が良いのかもしれません。

開設当時の大仁農場から学んだこと

私の不耕起栽培に関する考えの基本としているのは、所属しているMOAというグループにあります。静岡県伊豆の国市に大仁(おおひと)農場という展示農場があり、すべての農場で肥料、農薬、化学肥料を使っていません。もともとは茶畑で高い所の土を削り低い所に盛って一枚のフラットな農場とし、赤茶けた焼土(しょうど)がむき出しのような状況からから始まりました。

最初はいろいろな堆肥を入れました。有機物は入れたら入れたなりのレスポンスがあります。例えばネキリムシ。バーク堆肥とかリグニンが多いような堆肥が入ったエリアによく来るわけです。農場の開墾からはじまり、バーク堆肥をたくさん入れたエリアにネキリムシが大発生しました。(開墾から)15〜20年たってからの事です。化学肥料でなくても有機物を入れたら入れたなりの自然界の反応があります。

これは堆肥を入れた方が良い、入れない方が良いという話ではありません。土の状況に合わせて何を入れてあげれば良いのかという事と、入れれば入れたなりの事が自分にかえってくるよ、という事を知っておく必要があるのではと思っています。

こういったことに関する自然農法のガイドラインがあります。例えば国の方では有機JASというルールを作り、いわゆる有機農産物という格付けをしているわけですが、MOAでも独自のガイドラインを作り、ほぼ有機JASと同じ内容ですが、自然農法農産物というものを運用しています。

技術体系の考え方

技術体系の基本的な考え方ですが、一番は自然尊重・自然順応。「この時期に化学肥料をこれだけ入れて、この農薬をこれだけ使いましょう」という暦というものが各地域で策定されています。これに対し肥料や農薬を使わない自然農法では、その畑に耕作者が立った時「この畑に対して何をしてあげれば良いのかな」と考えるところからスタートします。すなわちこのマニュアルができない点が、自然農法が普及しにくい理由のひとつとなっています。

化学肥料や農薬のかわりに堆肥をしっかり入れたり、有機物の例えばボカシ肥料をある程度入れてあげたり、というのはとてもわかりやすいのですが、それ以上に「この土で何ができるのか」を考えるところから始めるということが一番大事だと思います。

自然尊重・自然順応は、自然に習うという事ですが、私が一番大事にしているのは「適地適作」。合う場所に合うものを作る、これを考えて実行するという事です。この後紹介しますが、この狭いエリアの中でも、ここにはこの作物、ここにはこの作物という基本的な考え方はあります。 「私はこれを作りたい」というのと、「ここにはこれができる」というある種、相反する思いがあります。合わない場所に何とかこれを作ろうと思ったら、それなりに肥料や防除資材が必要となってきます。大前提を踏まえた上で「じゃあ最後どこまで対応するか」という事を自然と相談しながら落とし込んでいく、そういった作業になるのではないかなと思います。

作付けの考え方(土壌管理の実際)

先程の大仁農場のように高い所を削り、低い所に盛っているというように、いわゆる高かった場所は切土、低かった場所は盛土です。これに対し、何も手をつけていない所は地山と呼びます。こちらの畑はいわゆる地山あり、昔からずっと積み上げて管理してこられた、表層に有機物がしっかりと蓄えられた農地です。展示用農場としては望ましい環境でスタートできたと思います。

無肥料にこだわるという事について。畑に穴を掘ってみると表層10センチくらいまでしっかりと有機物が溜め込まれた層があり、その下も割と根が通りそう、という感じが見受けられました。まずは「この既にできている立体の構造を大事にする」との管理を考え、「堆肥や有機物を最初からすきこまない」と判断しました。 適地の選び方について。ちょうど去年の春からスタートしたのですが、春の草の草生で地力を掌握し、そこに合うものの選択をその頃やっています。

これは不耕起区の穴を掘ったときの写真なのですが、表層10センチくらいにいわゆる腐食がしっかり集積していると思われる土の層であり、その下は心土(トラクタなどで耕うんした下の硬い土)では無く、ほどよい根伸びの良さそうな土と思われました。

穴を掘ったときに何を見るか。有機物の層の様子、根がどのくらい下の方まで伸びているのか、それから土の硬さを把握することで、土がどの様な状況にあるのかという事がわかります。その指標のひとつとして土の硬さを調べる山中式の貫入硬度計(山中式土壌硬度計)があり、これを土に刺して何ミリまでそのバーが伸びるかを調べるものです。

例えば約10ミリ以下、いわゆる刺しても反応が無いほどのホクホクしすぎる柔らかい土について。「柔らかいのなら良いじゃないか」と思われがちなのですが、逆に言えば干ばつが心配になります。親指で押すと何の抵抗もなくスポッと入る感じです。11〜15ミリは教科書的には丁度良く、力を加えればその元までズーと入っていきます。15〜18ミリはちょっと硬いのですが根は伸びていきます。親指に力を加えると程度に応じて半分くらい入ります。それ以上になると、土が硬いので根伸びが悪くなります。この貫入硬度計を使用する事で、この様な土の状況を数値として調べる事が可能となります。

穴を掘った時の情報は、慣れてくるほど様々な情報を集めることができるようになります。例えばトラクターを使って何回もかき混ぜた圃場などの排水が悪いような場所では、土の色が青みがかってくることがあります。青みがかるということは酸素が不足しており、土としてはチアノーゼ、酸欠状態になっているわけです。そういう土では間違いなく根が伸びないということがわかっており、この様に土の色も観察の指標になると思います。 写真にある断面にはその様なことはなく、とても良い状態だと思いますので、余計なことをしなくても作物が育つような土であると私は感じました。けっこう直感的なところもあり、それが全て成立するわけでもありません。あとは何年もやりながら見方が正しかったのか、もっとこうしてあげれば良かったとか、そんなことを考えていくのが農業の大きな醍醐味だと思います。

作付けの考え方(土壌管理の実際)

作付け時は剣スコップ、ミツグワ、移植ゴテでほぐす程度としました。またサトイモの区画のみですが、根がのびやすいように植える部分にちょっと穴を掘り、その下に剣スコップを使い足でグッグ、グッグと押してひび割れをおこす程度刺して、より下層の方に根が伸びやすいようにしました。

作付けの考え方(土壌と草生の観察より)

作付けの選択について。まずメインのトマトですが、これは私が関わる前2年間もずっとそこの区画はトマトだったとの事であり、このトマトで是非、「連作不耕起でものができていく」という世界を作りたいと思い、一番はじめに決めました。

これは日本全国のいろいろな所で行われている、自然農法でトマトを連作している農家さんのやり方なのですが、①不耕起で上側だけあけてそこにトマトの苗を差し込み、②次の年はそのトマトを引き抜かずに地上部だけ刈り取って、③トマトとトマトの間に次の年のトマトを植えていくことを繰り返します。こういった手法で連作でしかも肥料をほぼ使わないという事例が結構あり、それをこのエリアでも再現していきたいと思い、トマトをメインにしました。

次にサトイモですが、一番草生が良くなさそうな場所を選びました。一般的にサトイモはいわゆる肥料食いと言われています。考え方によっては一番ダメな地を選んでいるという話なのですが、その年だけではなく次の年につながるようにと考えました。サトイモの白い太い根が下の方まで伸びていき、そのサトイモの根を使って下層地を柔らかくし、また培土を2回か3回するので、収穫した後は小さな畝が残るような状態になります。そこに次の年は何ができるかという、2年越しの計画を考え、そういう意味で一番草生が良くないところにサトイモを入れました。

サツマイモは草生が中間的な場所を選びました。サトイモのエリアの斜面はわりとなだらかで、上いくほど角度がきつくなっています。ですから水はけが良さそうな場所であり、土もホクホクしているので、サツマイモを不耕起で作ることに問題は無いと判断しました。

大豆はその根粒菌で土作りができたら良いなということで、わりと草生が弱い場所を選びました。

アブラナ科は草生をみて、地力がいちばん高い状態になっていると思われる区画を選びました。前作に大豆を栽培しており、前作の大豆の根と秋作で植える(アブラナ科の)キャベツやブロッコリーの根が絡み合い、うまく関係しあうようにしたいと考えました。ですから大豆の根粒菌の効果や、マメ科でよく言う揚水(ようすい)効果(深いところの水を表層に引き上げる効果)がうまく絡み合うような状況を期待してアブラナ科を入れました。

栽培管理について

栽培管理はここに書いてあるとおりですが、一緒に作業していただいた方も「こんなスコップの使い方があったのか」という感じることもあったと思います。皆さんと一緒に楽しく作業をさせていただきました。

最初に草刈り機である程度表面をきれいにして、上の部分の草を両側によけ、そこにスコップで穴を掘り、穴を掘ったところにさらに土の下に亀裂をいれてあげるような工夫をして、そこにサトイモを植えました。スタートの設定が少々遅かった事などがあり、途中、こちらの皆様には除草作業に尽力をしていただきまして、サトイモも喜んでいるかなと思います。そしてサトイモはこんなに大きくなりました。最初は3列で予定しており、間がかなり広くなっていまいましたが、そこに後付ですが、枝豆で収穫体験できるようにということで間にダイズを入れました。

その後、サトイモはすくすくと大きくなり、今も生えているのですが、ホトケノザなど背の高くないいわゆる地上を這うような草がビシッと生えてくれて、水分保持など、そういう土を保護するような状況になってくれました。よく有機農業のイメージとして、キャベツなどの冬野菜とハコベなどが共生している風景を思い浮かべると思いますが、そのような状況になったということです。穴を掘ってみても下の方までしっかり根が張っており、このような収穫物が採れたということです。

トマトについては、土を裸にしないという目的で去年は防草シートを張り、その通路にトマトとバジルを混植して植えました。今年はこのトマトとトマトの間に次のトマトを植えるという、そういう流れになると思います。一部ジャングル化してしまいましたが、これだけ伸びてくれればまずまずだったと思います。

こちらはアブラナ科です。大豆の両側にアブラナ科を植えました。植えるところだけちょっときれいにしてあげたのですが、その時に出た枯れ草は後々日除けカバーとして使用しました。去年は本当に暑く、いつ植えたら良いのかととても悩みました。8月下旬から9月はじめくらいに行いましたが、結果オーライでちょうど良かったと思います。

耕起区と不耕起区の比較について

決して耕起するのが良い、悪いとか、そういう事を言っているわけではないことをご理解いただきたいのですが、去年は本当に夏場暑くて、雨が少ないという状況でしたので、余計にこういう比較の差ができてしまいました。不耕起のところは特に影響は無かったのですが、耕起区の方がかなり影響を受けてしまい、葉も黄色くなってしまいました。ほぼ毎年、去年の様な状況になっていますので、どういった異常気象が来たとしても、それなりにカバーできるような体系を考えていかなければならないと思います。

全てが上手く言ったかといえば、大豆だけがもうひとつ、というかほぼ全滅でした。開花時期にあまりに水がなかった事が原因だったと思います。よく「畦豆(あぜまめ)なんて、田んぼの畔に植えていたら何があっても、ほおって置いたってできる」と昔から有名な話ですが、そうはならず、一さやも食べることができませんでした。これだけが一点悔やまれる所です。

耕起区と不耕起区のそれぞれの区画で穴を掘ってみました。ちょうど雨が少ない時期ということもあり、耕起区の方を指で押したら、いわゆるスポッと入ってしまうような状況でしたので、本当に水分が少ない状態で推移してしまったということが考えられます。

土壌分析データについて

栽培終了後の土壌サンプリング(5点採取)の結果より、「不耕起区は耕起区と比べて養分的に高くはないが、十分に作物を育てる力があった」という事がわかりました。

それを踏まえ、令和6年の作付けは次のとおりです。トマトのところはトマトで連作し、サトイモとサツマイモを入れ替えようかと思っています。サトイモでできた小さな畝のところを活かしてそこにサツマイモを植えると、一層できやすくなるのではないか。さらに今年サトイモを作り小さな畝ができたところに次の年、何を植えようかな考えています。

それから夏場に楽しめるよう、今年はスイカを植えようかと思っています。またこの辺りは路地キュウリの産地と聞きまして、その路地キュウリを「こういうやり方でやったらどうなるかな」と今年は実証試験も兼ねて試みたいと思います。

自然農法の特徴

これは現代農業などでよく見かける「耕しすぎるのは良くない」という記事です。耕せば耕すほど土が細かくなり表層に土の層ができてしまうので、水をやっても下の方まで染み込んでいかないという状況になります。耕し方もそこを考える必要があるわけです。

地力の発現

何を持って地力とするか。物理性やそこに住む生物が整った上で初めて化学性が生かされてくる。その3つがそろって初めて地力ということになります。この地力という3つの条件が程よく整っていれば、肥料などを入れなくても作物が育ちます。それだけの力が土にはあるということを考えることが大事なのかなと思います。

30年間、土に埋め分解状況を観察すると

これは北海道の農家の方が30年間、木の棒を土に刺してその棒がどの深さにどのように分解していくのかを観察したものです。本当によく分解するのが10センチから15センチくらい。その下はほとんど木が分解しません。分解するのは小動物や微生物であり、それらの生物が活動できるのは、表層10センチから15センチなのです。それ以下はそういう生物層があまり発達してこないという事が、この木の観察からは言えると思います。

ここの畑もそうなのですが、やっぱり表層の10センチくらいの有機物の集積している部分というのはとても大事だと思っています。これをあえて深いところに混ぜ込んで、下の微生物があまり活動していない土を上に持ち上げてくるというのは、表層の側からするととても迷惑な話で、「せっかくオレ達が表層に良い条件を作ってきたのにオメエ何してんだ」みたいな、まあ土の側からするとそういう事を言いたいのではないかな、その様な気がするわけです。

その北海道での観察をもとに、北海道の農家さんの間ではこの表層15センチの微生物層以下は土を掘らない、そういう管理をとても大事にしています。表面の微生物層を反転させてさらに、農薬でこれを壊してしまう、これでは肥料なしでは農業が成り立ちません。肥料と農薬という負のスパイラルを作ってしまうのではないか。ですから、その表層のみをうまく管理できるようにするという事は、ここではスコップ一本でやるのですが、それだけではなく、機械力を使いながらも、基本はやはりここにあるという事を大事にすべきだと思います。

根の張り方の比較

これは肥料を入れた区画と、無肥料の区画の作物の根の深さを比較したものです。肥料が無いと下の方まで自分で根を伸ばしていきます。一方、肥料を入れると肥料を入れた厚さで根が完結してしまい、ますます肥料を使わないと成り立たない、という事になってしまいます。

自然農法と慣行農法の根伸びの違い

これはオーストラリアのオーガニック調査の写真です。自然農法の根はこれだけ伸びて、慣行農法の根は表層の15センチで根の生育が止まっている、という比較写真です。作物というのは根を伸ばし、地上部の作物生育を作るという力がある、これがこの不耕起栽培で一番実感できる醍醐味であり、この醍醐味を一年間かけて皆さんと体感できれば、ここでやる意義があるものと思います。

最初に「不耕起で」という話を頂いたのですが、不耕起ありきでやってしまうと、結局それは土を無視してしまうおそれがあると私は思います。その土地が不耕起を良しとしているのかどうなのか、という事をあらためて考えた上で、どのような管理がその土地にとって必要なのか。先程の焼土(しょうど)むき出しになった畑で同じようなことをやれと言われたら、私もさすがに「無理です」と言わざるを得ないと思います。

その土地にあったやり方で、たまたまそれが不耕起なのか、耕起なのか、簡易耕起なのか、しっかりと堆肥を入れてまずはロータリーでかきまぜる必要のある畑なのか、そういうことを理解してあげなければならないし、それはやはり観察から始まることなのかなと思います。

この様な観察を今年一年皆さんと共有できればありがたいと思います。以上で私の方からの今年一年間の方向性を紹介させていただきました。

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